2016年10月06日 [ミニバス 福岡]
「運動神経」なんてない・・・・?!
「運動神経」なんてない・・・・?!
ズバリ、結論から言いますと「運動神経」という神経はありません。
人間のあらゆる動きをつかさどっているのが神経で、スポーツの時だけに使われる特別な神経はありません。よって一般的に言われる「運動神経がない」「運動神経が鈍い」というものの原因は、神経の問題ではなく、運動やスポーツに慣れていなかったり、それらの体験が少なく身体操作性に劣っていたり、あるいは運動のコツを掴んでいなかったりすることが原因です。
運動スキルの習得は一言でいうとフィジカルトレーニングではありません、運動体験です。したがってフィジカルトレーニングとしてプログラム化したり、計画性をもって習得させたりすることは適当ではありませんし、また困難です。
プログラム化して運動スキルを習得するのは難しい
このような事例があります。近年、スポーツや運動をカリキュラムに取り入れた幼稚園や保育園が注目され、そこでは園児に跳び箱やマット運動、逆立ちやバク転などもやらせます。
非常に厳しく指導して卒園の頃にはほぼすべての園児たちが、それらの運動ができるようになります。確かに跳び箱やマット運動などは運動スキル習得の手段ですから、それらができるようなることは運動スキルが身に付いたとも考えられます。しかし、そこの園児の中には、跳び箱やマット運動ができるようになってもボール投げが苦手・自転車に乗れない・走るのが遅い・泳げない子どもたちがいます……。
さらに特段スポーツ好きや運動が得意な子どもになる、小学校の体育の成績が良くなるわけでもないようです。このようにプログラム化して、指導員が計画的に指導しても運動スキルの習得は難しいのです。
運動スキルのプログラム化がなぜ困難なのか?
そもそも運動スキルとは何なのでしょうか?「スポーツをするとスポーツが下手になる」の中でも説明しましたが、運動スキルとは「身体活動のためのコツなどを含む熟達した能力」と定義づけしました。
さらに本文の冒頭で運動スキルは運動体験であると述べました。「体験」とは専門辞書によると「何かについて主体的に、意識的にとらえること、直接に直感的に意識の内容として見いだされるもの」となっています。簡単に言い換えると、「物事に対して自主的に関わり、感覚などを通して意識として感じられること」です。
自分の意識のおもむくままに動き、身体と感覚を通して、楽しい辛い、重い軽い、速い遅い、危ない危なくないなどを経験することです。これは体験学習に近いとも言えます。体験学習は読んで字のごとく体験の中から学習することです。
発達心理学分野では体験学習を「すでに整理された情報を学習することと区別される。あらゆる行為行動は体験となり、特に記号化されていない生の体験に関わることである。全身と五感が関わるゆえに実感が強く働き、情動と認知がともにかかわることとなる。また自然や社会の本物の事象との関わりが生活への学習とつながる良さがある。また子ども独自の関わりが可能となり、個性の発揮と発見ともつながる。」と定義しています。
要するに意図的に作られていない未知の物事を身体活動により感情や五感が捉え、それが生活の中での知恵やスキルとなり、子どもの個性を築くということです。
作られた環境下では発達しにくい
しばしば紹介している運動学習指導の大家であるクルト・マイネル博士も自著「スポーツ運動学」の中で「子どもの諸動作もおとなの運動系も活動し、行為するうちに形作られる。環界との活発な交流がなければ、運動は決して発達しない。…中略… 随意運動はすべて個人が活動して生活する活動のなかで初めて獲得されるものである。」と述べています。
子どもも大人も自分を取り巻く環境へ積極的に働きかけて自らの意志で運動をしないと運動を発達させることはできないということです。ここまでの内容をご理解いただけると運動スキルはコツなどを含む熟達した能力であると定義したことと、且つこれが冒頭で「フィジカルトレーニングとしてプログラム化したり、計画性をもって習得させたりすることは適当ではありませんし、また困難である」と述べた理由です。
運動スキルを習得するには?
スポーツチームやスクールなどでは練習内容をデザインし計画します。事前に指導者がカリキュラム等に基づき教えることを決め、子どもはそれに従ってスポーツや運動をします。これではスポーツ系幼稚園で起こっていることと同じことになりかねませんし、体験学習による学習効果を得ることが難しくなります。
運動スキルは自らの意志、言い換えると「興味が沸いたことに対してチャレンジし、試行錯誤してコツを掴むこと」です。「教えられた」ということは教えられたこと以外の習得や応用が難しいということです。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?それはそもそも運動スキルが十分に備わっていない者に運動スキルを教えているわけですから運動スキルを発揮できるわけがないということです。言い換えると運動スキルの習得にはコツが大事です。教わったことではコツを感じ取ることが難しいこともあります。
運動のコツを習得するには?
コツとは何でしょうか?国語辞典によると「勘所、要領」などと書かれています。ポイントは「勘」です。さらに「勘」とは「分析的な思考によらないで直観的に物事の真相をとらえる精神作用」や「物事の意味やよしあしを直感的に感じとり判断する能力」とあります。コツとは要するに感覚です。「勘じる(感じる)」ことがコツなのです。
しかし勘じ方は個別的で主観的です。すべての者が同様の勘じ方はできません。勘覚的(感覚的)であるため教えることが難しいのです。かの有名なブルースリーの「燃えよドラゴン」の冒頭でリーが弟子の少年に「Don’t think! Feeeeel!」と指導する場面がありましたが、正にアレです!
運動スキルは一般的に走る、跳ぶ、投げる、捕る……などの基礎的な運動が運動スキルであると思われています。子どもを走らせたり、ボールを投げさせたりすることが運動スキルのトレーニングであると考えがちです。しかし、上記で触れていますが運動スキルは運動体験を通して「運動のコツ」を掴むことです。
したがってただ走ったり,ボールを投げれば運動スキルの習得につながるわけではないのです。
「投げる」動作を考える
「投げる」を例にしてお話しましょう。
投げる運動スキルはボールを投げることを目的にしているわけではありません。投運動のコツの習得、すなわち動きの習得とその効率化及び応用が目的です。
投げるのは的当てのように適度な球速で狙ったところに投げて的に当てる野球やダーツのような投げ方、バスケットボールのように山なり投げて狙ったところに落とす、石投げの水切り、新体操のようなフラフープの引き戻し(フープに回転を与えて投げて、フープを車輪のように走らせ、自分の方に戻す技)、独楽回しなど、さまざまな投げる動きがあります。
的当てや山なりの投運動は力の発揮調整と距離や空間認識が、水切りやフープの引き戻し、独楽回しは(独楽を投げ手前に紐を引き戻す)などは投げる物体への回転をかけるコツが含まれます。
このようなコツが習得されれば、例えばピッチャーの絶妙なコントロール、バスケットボールの3ポイントシュート、テニスや卓球などの球を切るなどのスポーツスキルにつながっていきます。また「運動類縁性」というものがあります。
運動の特にスポーツスキルには共通した動きがあります。例えばテニスのサーブ、バドミントンのスマッシュ、バレーボールのアタック、アメリカンフットボールの投げ方には共通した上半身の動きがあります。これらは運動ファミリーとも呼ばれています。
この中のどれかひとつでも、その動きとコツを習得すれば、他の動きは類縁性があるため応用を効かせることで習得の効率化を図れます。これが以前に紹介した「即座の習得」つながります。
ここまで述べてきたように運動スキルの習得はコツにあります。コツの指導は非常に難しいです。しかし、現代の子ども達には運動スキルを習得する機会が減少しています。したがって逆説的ですが運動スキル習得を指導する必要があるのです。
ズバリ、結論から言いますと「運動神経」という神経はありません。
人間のあらゆる動きをつかさどっているのが神経で、スポーツの時だけに使われる特別な神経はありません。よって一般的に言われる「運動神経がない」「運動神経が鈍い」というものの原因は、神経の問題ではなく、運動やスポーツに慣れていなかったり、それらの体験が少なく身体操作性に劣っていたり、あるいは運動のコツを掴んでいなかったりすることが原因です。
運動スキルの習得は一言でいうとフィジカルトレーニングではありません、運動体験です。したがってフィジカルトレーニングとしてプログラム化したり、計画性をもって習得させたりすることは適当ではありませんし、また困難です。
プログラム化して運動スキルを習得するのは難しい
このような事例があります。近年、スポーツや運動をカリキュラムに取り入れた幼稚園や保育園が注目され、そこでは園児に跳び箱やマット運動、逆立ちやバク転などもやらせます。
非常に厳しく指導して卒園の頃にはほぼすべての園児たちが、それらの運動ができるようになります。確かに跳び箱やマット運動などは運動スキル習得の手段ですから、それらができるようなることは運動スキルが身に付いたとも考えられます。しかし、そこの園児の中には、跳び箱やマット運動ができるようになってもボール投げが苦手・自転車に乗れない・走るのが遅い・泳げない子どもたちがいます……。
さらに特段スポーツ好きや運動が得意な子どもになる、小学校の体育の成績が良くなるわけでもないようです。このようにプログラム化して、指導員が計画的に指導しても運動スキルの習得は難しいのです。
運動スキルのプログラム化がなぜ困難なのか?
そもそも運動スキルとは何なのでしょうか?「スポーツをするとスポーツが下手になる」の中でも説明しましたが、運動スキルとは「身体活動のためのコツなどを含む熟達した能力」と定義づけしました。
さらに本文の冒頭で運動スキルは運動体験であると述べました。「体験」とは専門辞書によると「何かについて主体的に、意識的にとらえること、直接に直感的に意識の内容として見いだされるもの」となっています。簡単に言い換えると、「物事に対して自主的に関わり、感覚などを通して意識として感じられること」です。
自分の意識のおもむくままに動き、身体と感覚を通して、楽しい辛い、重い軽い、速い遅い、危ない危なくないなどを経験することです。これは体験学習に近いとも言えます。体験学習は読んで字のごとく体験の中から学習することです。
発達心理学分野では体験学習を「すでに整理された情報を学習することと区別される。あらゆる行為行動は体験となり、特に記号化されていない生の体験に関わることである。全身と五感が関わるゆえに実感が強く働き、情動と認知がともにかかわることとなる。また自然や社会の本物の事象との関わりが生活への学習とつながる良さがある。また子ども独自の関わりが可能となり、個性の発揮と発見ともつながる。」と定義しています。
要するに意図的に作られていない未知の物事を身体活動により感情や五感が捉え、それが生活の中での知恵やスキルとなり、子どもの個性を築くということです。
作られた環境下では発達しにくい
しばしば紹介している運動学習指導の大家であるクルト・マイネル博士も自著「スポーツ運動学」の中で「子どもの諸動作もおとなの運動系も活動し、行為するうちに形作られる。環界との活発な交流がなければ、運動は決して発達しない。…中略… 随意運動はすべて個人が活動して生活する活動のなかで初めて獲得されるものである。」と述べています。
子どもも大人も自分を取り巻く環境へ積極的に働きかけて自らの意志で運動をしないと運動を発達させることはできないということです。ここまでの内容をご理解いただけると運動スキルはコツなどを含む熟達した能力であると定義したことと、且つこれが冒頭で「フィジカルトレーニングとしてプログラム化したり、計画性をもって習得させたりすることは適当ではありませんし、また困難である」と述べた理由です。
運動スキルを習得するには?
スポーツチームやスクールなどでは練習内容をデザインし計画します。事前に指導者がカリキュラム等に基づき教えることを決め、子どもはそれに従ってスポーツや運動をします。これではスポーツ系幼稚園で起こっていることと同じことになりかねませんし、体験学習による学習効果を得ることが難しくなります。
運動スキルは自らの意志、言い換えると「興味が沸いたことに対してチャレンジし、試行錯誤してコツを掴むこと」です。「教えられた」ということは教えられたこと以外の習得や応用が難しいということです。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?それはそもそも運動スキルが十分に備わっていない者に運動スキルを教えているわけですから運動スキルを発揮できるわけがないということです。言い換えると運動スキルの習得にはコツが大事です。教わったことではコツを感じ取ることが難しいこともあります。
運動のコツを習得するには?
コツとは何でしょうか?国語辞典によると「勘所、要領」などと書かれています。ポイントは「勘」です。さらに「勘」とは「分析的な思考によらないで直観的に物事の真相をとらえる精神作用」や「物事の意味やよしあしを直感的に感じとり判断する能力」とあります。コツとは要するに感覚です。「勘じる(感じる)」ことがコツなのです。
しかし勘じ方は個別的で主観的です。すべての者が同様の勘じ方はできません。勘覚的(感覚的)であるため教えることが難しいのです。かの有名なブルースリーの「燃えよドラゴン」の冒頭でリーが弟子の少年に「Don’t think! Feeeeel!」と指導する場面がありましたが、正にアレです!
運動スキルは一般的に走る、跳ぶ、投げる、捕る……などの基礎的な運動が運動スキルであると思われています。子どもを走らせたり、ボールを投げさせたりすることが運動スキルのトレーニングであると考えがちです。しかし、上記で触れていますが運動スキルは運動体験を通して「運動のコツ」を掴むことです。
したがってただ走ったり,ボールを投げれば運動スキルの習得につながるわけではないのです。
「投げる」動作を考える
「投げる」を例にしてお話しましょう。
投げる運動スキルはボールを投げることを目的にしているわけではありません。投運動のコツの習得、すなわち動きの習得とその効率化及び応用が目的です。
投げるのは的当てのように適度な球速で狙ったところに投げて的に当てる野球やダーツのような投げ方、バスケットボールのように山なり投げて狙ったところに落とす、石投げの水切り、新体操のようなフラフープの引き戻し(フープに回転を与えて投げて、フープを車輪のように走らせ、自分の方に戻す技)、独楽回しなど、さまざまな投げる動きがあります。
的当てや山なりの投運動は力の発揮調整と距離や空間認識が、水切りやフープの引き戻し、独楽回しは(独楽を投げ手前に紐を引き戻す)などは投げる物体への回転をかけるコツが含まれます。
このようなコツが習得されれば、例えばピッチャーの絶妙なコントロール、バスケットボールの3ポイントシュート、テニスや卓球などの球を切るなどのスポーツスキルにつながっていきます。また「運動類縁性」というものがあります。
運動の特にスポーツスキルには共通した動きがあります。例えばテニスのサーブ、バドミントンのスマッシュ、バレーボールのアタック、アメリカンフットボールの投げ方には共通した上半身の動きがあります。これらは運動ファミリーとも呼ばれています。
この中のどれかひとつでも、その動きとコツを習得すれば、他の動きは類縁性があるため応用を効かせることで習得の効率化を図れます。これが以前に紹介した「即座の習得」つながります。
ここまで述べてきたように運動スキルの習得はコツにあります。コツの指導は非常に難しいです。しかし、現代の子ども達には運動スキルを習得する機会が減少しています。したがって逆説的ですが運動スキル習得を指導する必要があるのです。